【岐路 バスと観光新たな関係21】事業としての貸し切りバス11 成定竜一


 貸し切りバスは、わが国における観光産業の成長にとって大きな役割を果たしてきた。だが、ここまで見てきたように、会社(ブランド)名が表に出ない「黒子」であったが故に差異化が困難であった。そのため、規制緩和によって新規参入が増加して以降、運賃(価格)のみが競争の支配要素となり、低価格競争を繰り返してきた。

 底辺に近い事業者で重大な事故が続いたことで、一昨年に新運賃制度が施行された。制度に守られなければ価格を引き上げられなかったのは恥ずかしい話だが、ほっと一息というのが皆の本音だろう。だが、法令違反を何とも思わない一部の事業者によって、その運賃制度さえ、なし崩しに形骸化し、また低価格競争に戻ってしまうリスクはゼロではない。

 だからこそ、安全への取り組み内容を可視化し価格以外の競争要素を作ることが必要である。また、運用面で多少の面倒は覚悟してでも、旅行の募集広告(パンフレット)等において利用予定のバス事業者を事前に旅行者に知らせることが、その動きを加速させよう。

 むろん、品質の差は安全面だけではない。ハード面では、目先の運用効率だけを優先した画一的な車両作りから脱し車両仕様の多様化を目指すべきであるし、バスガイドのスキルをはじめとしたソフト面も可視化を図り、品質の差を競う競争環境を整備すべきだ。

 そして、それを率先できるのは品質に自信を持つ一流の貸し切りバス事業者と、彼らに多くの業務を発注する大手、一流の旅行会社のみである。彼らの奮起に期待する。

 先に述べたように、直近の15年間に貸し切りバスの市場規模は拡大したが、それは規制緩和が促した新規参入増加による、総台数(供給量)の増加と低価格競争の結果でしかない。より長いスパンで見れば、旅行形態が団体から個人へシフトする中で、団体旅行に頼る貸し切りバス市場は、その将来を楽観視することはできない。

 だからこそ、各事業者が自らのブランド価値を明確に示し、健全な競争環境の下で各事業者が切磋琢磨することが、生き残りに向けた唯一の道なのだ。

 (高速バスマーケティング研究所代表)

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